叩きたくてたまらない #5


ジェンべを練習するようになって、
今までとは全く違うルートで出会う人が
だんだん増えてきた。

それまでは、
高校や大学など学生時代のつながりとか、
同世代の夜遊び仲間とか、
比較的バックボーンが似ている知人が多かったけど、
例えば忽然と姿を消した、
公園住まいのおっちゃんと話すようになったのも
ジェンべがきっかけだったし、
Yさんのジャンベ教室で出会う人たちも、
とっても個性的で刺激的だった。

日曜朝10時のクラスは初心者向けのクラスで、
いつも5〜10人ぐらいの生徒がいて、
毎週のように顔を合わせた。
なぜか女性が多かったような気がする。
当時はちょっと強面で飄々としてて、
お世辞にも愛想がいいとは言えないYさんだったし、
レッスンはびしばしなスパルタ式だったし、
同性は近づきがたかったのかもしれないな、
と今は思う。

そう、Yさん。
教室で教えてる時はスパルタな職人気質の先生。
おらー!叩けぇぇー!!、とばかりに
時間いっぱい叩かせまくられる。
「この教室に通ってる生徒が下手くそのままだったら、
自分のプライドが許さないからな。」
というようなことを冗談混じりに言う人で。
でもそれは結構本音だったのかも。

そう言えちゃうのも、Yさん自身から
「きっとこの人ジェンべのことが大好きなんだろうな」
というジェンべ愛がいつも溢れ出ていたから。
ジェンべに真正面から向き合っているYさんを、
シンプルでかっこいいなぁと思った。
初心者のわたしにはYさんの言葉や叩く音に
納得させられることが本当に多かった。

猫背になってたら姿勢が悪いと怒られる。
音が出ていなかったら出るまで何度も叩かせられる。
手順にも音の良し悪しにも厳しかった。
できなくて涙を流す人もいたよなぁ。
最初の頃はついていくのに必死で、
公園での朝の個人練はもちろん、
居残り練習もやったし、
1回で覚えきれないフレーズは、
Yさんに教えてもらった
「Y式ジャンベ譜面」でメモったりして覚えた。

わたしみたいな初心者相手に先生やってるけど、
Yさんの本職はミュージシャンだ。
ライブで演奏してる時は
全身全霊で全てをさらけ出して叩いていて、
まさしくアーティストだなぁと思った。
そんな気合の入ったYさんの演奏が好きで
教室仲間と一緒に何度もライブを見に行った。

教室仲間は、
出身も年齢も職業も住んでる場所も、
みんな全然違っていたけど、
とても優しい人たちばかりで。
ジェンべが好きという気持ちが共通してたせいもあり、
付き合い下手なわたしでも割とすぐに仲良くなれて、
12時までの教室が終わったら
スタジオの近所でランチを食べたり、
教室のない休日にはよく誰かの自宅に集まって
ジェンべのことや好きな音楽の話をしたりしてたっけ。

Yさんの教室に通うようになると、
月に一度のD氏のワークショップと
日程がかぶることが多かったため、
なかなか行けなくなってしまった。

というかもう、毎週末のYさんの教室だけで
わたしの叩きたい欲は完全に満たされてしまい、
足を運ぶ必要がなくなってしまっていた。
開催のお知らせをくれていた主催者からも
そのうち連絡がこなくなってしまい、
D氏のワークショップがあるのかどうかも
いつの間にかわからなくなってしまった。

暑い夏が過ぎ、寒くて凍える季節がきて、
雪が舞い落ちる日でも、
わたしはYさんからジェンべを習うため、
ジェンべを担いで地下鉄に乗り、教室に通った。

Yさんの教室に通い始めて1年程たった頃、
Yさんがわたしに言った。
「ママディ・ケイタが来るから、
ワークショップを受けてきなさい。」

ママディ・ケイタ。
誰だ?

これがYさん伝授のジャンベ譜面。
一番左のはまさにこの当時のものです。
わたしにしては丁寧にインデックスまでつけてあって、
当時の真剣さがうかがえますね(笑)

後に出会ったE氏のレッスンは
録音・撮影・レッスン中のメモなど
一切不可!という大変お厳しいお方で。
自分だけがわかればそれでいいという精神で、
習ったことを書きなぐって復習しておりました。
それが右側。Yさんの譜面書きおこし方法が活きております。
今見たら何のこっちゃ意味不明なところも少々ありますが、
だいたいは思い返せるのがY式ジャンベ譜面のいいところ。

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