ジェンべと出会った頃のこと #3


初めてジャンベという楽器を
目にしたあの日以来、
ジャンベのことが
何だか気になって仕方がない。
というか、
名前は「ジャンベ」だったっけ?
本当にそうだったのかどうか
それさえもあやしいぐらいの
頼りない記憶だった。
でもあの音とリズムの渦が、
わたしの気持ちを
ぎゅっと掴んで離さない。
それだけは間違いなかった。

もう一回、名前を確認したいな。
そしてわたしもあんな風に
叩いてみたいんだけどな。

もし名前を多少間違えていたとしても、
今ならスマホで検索すれば
それが何なのか、どこにあるのか、
ものの数分でわかるはず。
でもあの当時はまだ
そんな環境はなかった。

気になっているけど、
どこの誰だかわからない。
例えば通学途中の駅、
反対側のホームの
人ごみの中で見かけた人に
恋してしまうような、
そんな感じに似ている。
探しても見つけ出せない、
近づきたくても
近づけない存在だった。

そんなある日、
夜遊び仲間の一人、Aと
近所の老舗アジアンカフェへ
夕食をとりに出向いた。

チャイの美味しいそのカフェは、
お寺が立ち並ぶ路地へ
少し入ったビルの地下で、
いつも密やかに営業していた。
グリーンやエスニック雑貨で飾られた
穏やかで雰囲気のよい階段を
トントンと降りていくと、
年季の入った古木で作られた
大きな扉が出迎えてくれる。


階段を降りきる前に店内から
何か楽器らしき音が聞こえてきた。
ああ、今日はライブの日だったんだ。
今入ったらチャージとられるかな、
なんて考えていたら。

むむ、この音は?このリズムは?

重い古木の扉をそっと開けて、
中を覗いてみる。
ステージは、
今わたしが立っている入り口の真正面。
もともと薄暗い店内だけど、
今夜はそこだけライトが少し明るい。
その明かりの下で、
ドレッドヘアを振り乱しながら
パーカッションを
演奏している人たちがいた。

ジャンベだ!

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