ジェンべは突然やって来た #2


次のワークショップまでの約1ヶ月間、
仕事も何も手につかないほど
浮き足立ってそわそわしていた。

どちらかというと
熱しやすく冷めやすい性格で、
一度狙いを定めると、
目的を達成するまではどこまでも
突き進んでいくタイプのわたし。
叩いたのはまだ一回きりだけれど、
初めてジェンベを見た日に芽生えた
小さな情熱を、
これぞ運命の出会いとばかりに
燃え上がらせるには充分だった。

きっと今なら、
YouTubeとかで
ジェンべがタグ付けされた動画を
夜な夜なザッピングして、
そわそわするこの気持ちを
視覚と聴覚から
満たすことができるんだろうな。

そんな手段を持ち得てなかったあの頃、
やり場のない一方的な恋心は
ただただ膨らみ続けるだけだった。

募りに募った気持ちを胸に、
2回目のワークショップに参加した。



この日も1回目と同じ場所で
Dたちと一緒に、
とにかく無我夢中で叩いた。

そしてワークショップが終わって
それぞれ楽器を片付け始めたとき、
わたしは今だとばかりにDに声をかけた。

「あの、自分のジャンベが欲しいんだけど、、」
ジャンベをケースにしまっていたDは
わたしの方に顔を向けた。
「オッケー、じゃあ探してあげる。
これに住所と電話番号、書いて。」
Dが差し出した紙に
何も考えず自分の連絡先を書いた。

今のわたしなら、
なぜ連絡先をいきなり教える必要があるのか
経年で備わった危機管理能力から
警戒すべきだとアラートが鳴るはず。

でもまだ若かったあの頃のわたしは
その後に起こる出来事を
予測することなんてできなかった。

(ジェンべは突然やってきた#3へ続く)

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