叩きたくてたまらない #2


当時の夜遊び仲間の1人が
A村にジャンベや民族楽器を売っている
お店がある、とどこからか聞きつけて、
最近ジェンべにはまっている
わたしに教えてくれた。

A村は、市内中心部にある
若者向けの店舗が集中したエリアで、
自宅から自転車で行ける距離だ。
クラブやレコード屋もいくつかあるし、
よく行く古着屋もその付近にあった。

しかしA村と呼ばれるエリアは
そこそこ広い。
雑居ビルがひしめき合っていて、
店舗数も膨大だ。
その中から名前もわからない
たった一軒のお店を見つけるのは、
スマホもSNSもない時代、
そんなに簡単ではなかった。

もしかしたら
Dのワークショップに来てる人の中に
知ってる人がいるかもしれないな、
思いながら、
次の情報を待つことにした。

そんな折、
ジェンべの演奏を生で見る機会が再びあった。

その夜は、最終の地下鉄に乗って
ケン・イシイが回すパーティへ向かった。
港のすぐそばにある大型のクラブは、
すでに人でごったがえしていた。
わたしたちも何とかフロアへ入る。

ケン・イシイがプレイするその横で、
パーカッションセットを演奏する男性がいた。

そのセットの中に
ジェンべが一台あったのだ。

打ち込み音で刻まれる
無機質なテクノミュージックの中で、
その男性は小動物が飛び跳ねるような
躍動感あるリズムを
様々な打楽器で叩き続けた。

打楽器の音に体温がある、と思った。

生きているようなその音と、
ケン・イシイがマシンから打ち出す
電子音とが混ざり合って、
独特の世界を作り出す。

小物楽器を打ち鳴らした後、
男性はジェンべに移った。
わたしはその人から目が離せなかった。

ジェンべを叩き始めると、
ケン・イシイの近未来的な世界観が、
一気にトライバルな色に変わった。
乾いた土の上に雨が降ってきたときの
においがしたような気がした。
コンクリートで固められた都市は、
ジェンべの音に導かれて
やがてジャングルへ還っていく、
そんな幻が見えた。

すごい!
打楽器ひとつの音色で、
こんなにも世界観を変えられるなんて!

わたしは何かものすごい発見を
したような気分になった。
そしてますますジェンべが
叩きたくてたまらなくなった。

練習したい!
あんな風にかっこよく叩きたい!

ケン・イシイと共演していたこの男性とは、
数年後にジェンべを通じて
対面することになるのだが、
もちろんこの時そんなことは
思いもしなかった。

テクノだけでなく、いろんなジャンルの音楽でも
ジェンべがパーカッションのひとつとして
登場することが最近はよくあります。
やっぱりジェンべってかっこいい♪、と
Djembe Girl(元、笑)としては無条件に思っちゃいます。
でもルーツはこの写真の絵のような感じ。
ジェンべは西アフリカの民族楽器なのです。

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