ジェンべと出会った頃のこと #7


「はい、それじゃあさいしょは、こうね。」
Dは背筋を伸ばし、
ジャンベの打面のふち近く、
中心を挟んで左右対象に
手のひらを軽く置いた。

全員が同じような姿勢になる。
わたしも見よう見まねで
手を置き、
背筋を伸ばしてみた。


「みんなわたしの手を見て。
おなじようにうごかすよ。
せーの。」

右手と左手を交互に上下させて
手のひらを皮に打ちつける。
すると、
バッタ、バッタ、バッタと、音が
ゆっくりしたテンポで鳴りはじめた。

ひとりひとりが叩いて出す
大小高低いろんな音の粒が集まって、
大きなひとつの塊になる。
意識はその塊に向かって集中する。

塊は、揃ったり乱れたりしながら
リズミカルに行進していく。

わたしもその列についていこうと
無心で手を動かした。

行進はだんだんと
速度を増していく。
手の動きが早まるのに合わせて
身体が熱を帯びてくる。
ゆっくり歩き始たのに、
かけ足ぐらいのテンポにまで
スピードが上がっていた。
でも行進はまだ止まらない。

どこまで行くの?
待って、待って!

やがて行進の列が徐々に
足並みを乱し始めた。
音の粒は加速に耐えられず、
力を失っていく。
キツそうな表情の人、
手を動かすのをあきらめた人、
ひとつの塊になっていた意識が、
それぞれの場所に帰っていく。

「はーい、やめて。」
Dの声で音が完全に止まった。

これだったんだ。
初めてジャンベをみた
あの夜の音の渦は。
こうやって
みんなで並んで行進して、
渦を作ってたんだ。

わたしはいま
その渦の中のひとつの音だった。
自分の音が
どんな音だったのか、
本当に出ていたのかどうかは
よくわからなかった。
でも叩き終わった爽快感だけは
半端なく残っている。

気づくと手のひらがジーンと痺れていた。
全体が見た事ないほど赤くなっている。


その痺れが、心地良かった。
叩いたよ、と手のひらが言っていた。

ワークショップは
約90分間続いた。
その間、とにかく無心で
ただただ手を動かした。

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