ジェンべと出会った頃のこと #1


ジェンべを初めて見たときのことは、
今でもよく覚えている。

あの頃のわたしは、
どこかのクラブのスピーカーの前で
週末を過ごすことが多かった。

テクノ、
ドラムンベース、
ハッピーハードコア、
レゲエにダブ。

どちらかというと
アンダーグラウンドな雰囲気が
好きだったし、
そういうパーティは毎週末
どこかでやっていた。
SNSなんて言葉も知らない時代、
レコードショップや
クラブに置いてある
フライヤーを頼りに、
気の合う仲間と
あちこち出歩いてたっけ。

クラブの扉の内側は、
外の世界と
完全に切り離された密室。
埃と煙と酒、
そして人いきれ。
いろんなにおいが混ざって
澱んだ空気が、
鼻の奥をザラザラにしながら
通り抜けて身体に入ってくると、
気持ちのスイッチが
非日常モードへ切り替わる。


DJが指先で操るマシンから、
次々と現れる四つ打ちバスドラムの音。
それに合わせてVJが
ハイスピードでシーンを切り替えていく。
煙でかすんだ薄暗いフロアには、
ゆらゆらと揺れる人たち。
その中に、きゃっほー!
と奇声をあげて飛び混んでいく。

巨大なスピーカーから這い出て
ブンブンとうなる低音を
朝になるまで浴びて浴びて、
浴びまくって。
開放感と多幸感で満たされ、
身体をゆらゆらさせながら、
別世界へトリップする。
この瞬間を体験してるわたしは、
すごく特別な存在なんだと
思っていたなぁ。

夜が明ける。

エントランスの扉は、
まだ爆音の鳴り続けてる密室と
外の世界との境界線。
それを超える瞬間、
再び日常モードへと
気持ちのスイッチを切り替える。

そしてまるで何もなかったかのように
まだほとんど人が乗ってない
週末早朝の地下鉄の中、
ちんまりと座って
いい子に帰宅して眠るのです。

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