ジェンべと出会った頃のこと #4


地下1階にあるアジアンカフェの店内に、
乾いた太鼓の音が鳴り響いていた。
太くて低い音がゲゲンゲゲンと
リズミカルに流れているその上に、
ピリンッ、パランッ、と
高い音が鋭く突き抜ける。

その音を聞いたとたん、
お腹の真ん中のあたりがキュッとなった。
そして全身の毛がぞわっと逆立つ。
一瞬で身動きが取れなくなった。
わたしの横でAも固まっている。

何この圧倒的な迫力は。

お店の人がステージ横のカウンターで、
扉を閉めるように身振りで促すのが見えた。
我に返ったわたしとAは、
あわてて中に入り、
静かに空いている椅子に着いた。

鋭い高音を鳴らしているのが
ジャンベだった。
見るからに屈強な男の人が2人、
ジャンベを肩からぶら下げるように
担いで叩いている。
筋肉質な長い腕。
その動きは大きくてしなやかで、
野生動物のように素早い。
手元から飛び出る音の粒は
機関銃の弾丸のように高速で連なって、
永遠に続いていくかのようだった。
歌のような、会話のような、
そんな風にも聞こえた。


見た目は和太鼓のような大太鼓を
床にごろりと寝かせて、
座ったままバチでそれを
打っている人も一人いた。
聞こえてくる低音部分は、
どうやらこの人が担当しているっぽい。

演奏していたのはその3人。
そして3人とも
日本人ではなさそうだった。
黒い色の肌に、
原色使いが鮮やかな独特の民族衣装が
美しいほどに映えている。
ドレッドヘアは肩よりも長かった。

打楽器だけの構成って、
初めて見たな。
リズムだけなのに、
でもちゃんと音楽だよね。
不思議だなぁ。
ジャンベって本来、
こういう民族楽器なんだね。

そのあたりのことは
演奏が全て終わって
自宅に戻ってから思い返して
記憶のかけらをつなぎ合わせた。

演奏中はジャンベの音に射抜かれて、
そんなこと何も考えられなかった。
ただひたすら興奮していた。

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