ジェンべと出会った頃のこと #5


演奏はものの数分ですぐ終わった。
わたしたちがカフェに入ったタイミングは、
すでに今夜のライブの
エンディングだったらしい。

観客の拍手が続く中、
黒い肌に汗を光らせながら
流暢な日本語で
「ありがとう、また会いましょう!」
と言うと、彼らは楽器と一緒に
その場からから消えた。

カフェはいつもの、
スパイスの香りがゆるりと漂う
穏やかな空間にもどった。

ドリンクや食事を
すでに終えた人たちが、
ライブの終演をきっかけに
次々と席を立つと、
店内には人がほとんど残ってなかった。
閉店時間までまだ時間があるはずだけど、
今からオーダーするお客は、
どうやらわたしたちだけっぽい。

遠慮がちにカレーとチャイを注文し、
タバコに火をつけて
Aと二人でぼんやりと
食事が出てくるのを待つ。

「あの人たち、何人かな?」
わたしが言うとAは、
「アフリカっぽくない?あのカンジは。」
と答えた。
アフリカ、言われてみると
そんな気がする。
だけど正直なところ、
今までアフリカらしきことに
全く接点がなかったせいか、
どこがどうアフリカっぽいのかは
よくわからなかった。

だけど、その音とリズムは
相変わらずわたしの中に残っていて
初めてジャンベを見たあの時よりも
さらに大きな存在になっていた。


カレーを食べ終え、
カルダモンの香りがツンと立つ
温かいチャイを飲み干し、
まだ耳の奥に残るジャンベの音を
たぐり寄せるように思い出しながら、
古木の扉を再び通り抜け
地上へのびる階段に足をかけた。

階段を見上げると
ビルの出入り口の狭いスペースで、
誰かが立ち話しをしていた。
後ろ姿しかみえないけれど、
日本語ではない言葉で
楽しげに会話しているのが聞こえる。
演奏していた3人だと
わたしはすぐに気づいた。

地上に出るには、
どうしても彼らの前を
通らなければならない。

この辺に住んでる人たちなのかな?
あの太鼓の名前、
ジャンベで合ってるか
聞いてみようかな?
でも日本語で話しかけて
通じるのかな?

彼らがいる出入り口は
一段一段、
徐々に近づいているのに
話しかけるかどうか
決心できないままだった。
すぐそばまで来た時、
一人が振り返ってこちらを見た。
そして、
「今日はありがとね。楽しかった?」
と、声をかけてきた。

民族衣装はもう着ていなかったけれど、
ライブ中に流暢な日本語で
話していた人だった。

「楽しかったよ。あれ何ていう太鼓?」
Aが質問を返す。

「ジャンベだよ。」

名前、合ってたんだ。
やっぱりジャンベだった。
そう思ったら、変な勢いがついた。

「わたし、ジャンベすごい興味ある。
やってみたい!」

今思えば、
唐突で不躾な発言を
いきなりしてしまったと思う。
でもその人に、動じた様子は全くなかった。
やわらかい笑顔で
「そうなんだ、じゃワークショップにおいで。」
と、一枚のフライヤーを手渡してくれた。

(ジェンべと出会った頃のこと #6へつづく)

コメント